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目印


幼い頃よく迷子になった。

私の兄は連れて行ってくれるのだが連れて帰ってくれないのだから迷子になるのもしょうがない。


2,3歳の頃家族旅で訪れた飛騨高山の朝市で迷子になり、泣いていた私はパトカーに乗せてもらい、何の手がかりもない中、家族を探してもらっていた。

私の父はこだわりのつよい人で当時の車の両側面にでかでかと自分のマークを塗装していた。

しばらくパトカーで巡回してもらっているとその父のマークが目に飛び込んできたのだ。

私はあの車が父のものだと叫んで無事合流できたのだった。

なかなか主張の強い車だったがあの時はあのマークがあって本当によかったと思った。


文字すら読めない幼児でも瞬時に識別できる印。

家紋の始まりもこのような事であったのだろう。

平安時代は貴族が牛車や持ち物に、戦国時代には武士が甲冑や旗に、商家では奈良時代辺りから品物に印をつけた。

初めは簡単な印だったが、身近な動植物や気象、道具などをモチーフにして美しく整った家紋ができていった。

江戸期には庶民も家紋を持ち、数が増え、他の工芸や文化と同様にこの時期に家紋のデザイナーである紋章上絵師により完成されていったのだろう。


家紋の数は2万点以上あると思う。

そのいずれもモチーフの特徴をよくとらえて単純化されていて美しく整っている。

中には物語性を感じるようなものもあり、この小さい中に世界観を表現した当時の紋章上絵師の感覚の豊さを感じる。

家紋は日本人らしい感覚が詰まった素晴らしいものだと思う。


とはいうものの現代に家紋を広げようとかいろいろな使い方をして日常にもっと取り入れようとかはあまり思わない。

私は着物に入っている家紋が一番美しいと思う。

お茶席でお手前の方の背に紋が入っていたりするとその後ろ姿が引き締まり静寂な空気感と相まってとても美しく好みだ。

なので今の私は着物を着る方で入れたい方が入れたらそれで良いと思っている。




西染物店


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