

はじまり
家業は紋章上絵業だ。 着物に家紋を描き入れる仕事である。 私で四代目になるので明治40年頃の始まりらしいがはっきりはしない。 初代は甲府の連雀問屋街、そこから自転車で10分程下った場所に二代目から移って今に至る。 連雀問屋街は今から40年程前までは繊維の問屋を中心に賑わっていてその周辺には様々な職人さんがいた。 なので白生地がその周辺を一回りすれば染まって紋まで入った着物が仕立て上がったらしい。 私の幼い頃はバブル絶頂期でとても忙しく親が手を離せないのでこの辺りの仕立て屋さんにはよく配達に行かされたものだ。 小さい自転車の前かごに反物を入れるとすごい違和感で恥ずかしく友達に見られたくないという思いで自転車をこぎ、着いて戸を開けるとたくさんのお弟子さんが一斉にこちらを向く中、もじもじと品物を渡してくるのだが人見知りな私にはなかなかの心労だったのか未だにその光景を憶えている。 そんな街もすっかり静かになってしまい、大きな道が通るため、空家になっていた初代の家も数年前に取り壊され今は歩道の一部になっている。 大きいものの一部になってしまうととても小さく


西染物店のこれまでとこれからのこと
コロナ禍で実際に人と会うことが難しい日々が続いている中、西染物店としての取り組み方を模索して3年目の春を迎えました。 今までのように展示会を通して、実際に作品を見て貰えることが、語らずもわたしたちの姿勢というものを感じ取って貰える方法でしたが、まだ不安定な世の中では大手を振って展示会を「楽しく」開催することが難しそうです。 そこで、楽しく展示会を開催できるようになるまで、少し自分たちの話をしていこうと思いました。 これまでの時間と経験から作られたものと、これから創り出していくものは、コロナ禍を経て、少なからず変化を伴うと思います。 ただ、制作における根っこの部分はいつも同じなはずで、その根本的な部分から少しずつお話しできたらいいなと思っています。 西染物店は夫婦二人で営んでいますので、染め部とデザイン部に分かれて交互にそれぞれの視点で考えていることをお伝えしていく予定です。